それでも夜は明ける

スティーヴ・マックイーン監督。主演、キウェテル・イジョフォー

「これは実話に基づいた話である」

この言葉の意味がどんどん重くなっていく作品だった。

ただただエグイ。どっぷりと疲れた。実際はこんなもんではなかっただろう。

主従関係をさも当たり前かのように演出する、「支配者」役の役者達の熱演がそれだけ素晴らしかったということなのだろうか。

人種差別とは無縁な環境で育ってきた人間としてそう感じたのだが、欧米人はこれを観てどう感じるのだろうか。。。

サッカーでは毎年のように人種差別がニュースになるわけで。。。

本当に夜は明けたのだろうか。

ショーシャンクの空に

フランク・ダラボン監督。主演、ティム・ロビンス

名前は知ってたけど観たことがなかった作品。そりゃ1994年なんて僕はまだ1歳くらいですし。大昔の映画というイメージ。近所のツタヤだと不朽の名作コーナーに置いてあるような。

観た感想としては、不朽の名作という評判に違わず、観てよかったと感じさせられる作品だった。人におすすめしたくなるのもわかる。

序盤、中盤に漂っている、どんよりとした、陰湿な雰囲気からの、なんとも爽やかすぎるエンディング。レンタルなのに、エンドロールが終わるまできっちりと余韻に浸ってしまった。

あと、アンディが最後まで希望を捨てなかったことが、レッドなど周囲を明るくし、陰湿な1時間半を観るに堪えるものとしてくれたのかもしれない。

さっきから陰湿陰湿言ってるけど、本当にそれくらいイヤなヤツが多かった。どっちが悪人でどっちが善人かわかったもんじゃない。

内容に関していうことはこれくらいだろうか。

希望がもらえるとかそういった月並みな言葉を言うのも何かなあ。。。という感じ。

ただ、希望が絶望に勝った2人が最後には笑ったのだけど。

とにかく1回観てみろ!という言葉が良く似合う作品だった。

42

ブライアン・ヘルゲランド監督。主演、チャドウィック・ボーズマン

黒人と白人が同じ場で野球をする。。。そんな当たり前のことが、当たり前ではなかった時代があった。しかも、それはわずか70年前のこと。。。

この作品は、後に「当たり前」となる、当時は「異端」とされていたことに挑んだ人々の物語である。

唯一の黒人メジャーリーガーであるジャッキーに、ニガーと罵声を飛ばす大人達。それを見ていた子供は、父親に倣って同じくニガーと叫ぶ。

そんな、「当たり前」だけど、「異常」なことを変えようとする黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンは、当時からしたらまさに異端者であろう。

多くの民衆は、そんな異端者を受け付けることが出来ず、容赦なく排除しようとする。

そんな民衆に自身を受け入れさせる手段はただ1つ、何をされても我慢する勇気だけであった。

その勇気1つで立ち向かったジャッキーの姿は、少しずつ周囲を変えていく。

そして、最後のパイレーツ戦。試合を決めるホームランを打ったジャッキーに、ニガーなどと罵声を飛ばすものはおらず、ピッツバーグの人々は拍手をもって、ホームに迎え入れるのだった。

民意から外れたことを主張するのはとても難しい。平穏を乱そうとする異端者は即座に善良な市民によって締め出される。(リーガルハイで似たようなセリフ聞いたことあるなあ。。。)

ジャッキーはもちろん、ジャッキーと契約を結んだ、オーナーのリッキー、ジャッキーを最初から受け入れ、肩を組むことで民衆を黙らせたリース、記者として、スタンドで共に戦い続けたスミスも、民衆と戦い、自らの信念を貫いた人たちだろう。

信念の強さが違うからだろうか、上記の人たちは殿堂入りするなど、球史に名を残す活躍をしている。それが本当によかった。

私自身、人種差別をする人間は大嫌いで、冗談でもそういうことを言う人は許せないなと思うのだが、果たして、当時でも、この信念を貫くことが出来ていたのだろうか。また、民意に流されて、自身を曲げてしまっているところはなだろうか。そう考えさせられる作品だった。

グリーンマイル

フランク・ダラボン監督。主演、トム・ハンクス

188分。長い。

と最初は思ったのだが、中だるみを感じることはなく、3時間はあっという間に経ってしまった。

特に脚本が作りこまれているわけではなかったのにも関わらず、そう感じさせられたのは、役者の演技が素晴らしかったからではないだろうか。

刑務所、死刑囚。人間らしさから最も遠いような場所でありながら、多くの人物がそれぞれ持つ優しさだったり、パーシーのクソ野郎っぷりだったり、人間らしさというか、個性がとても上手く表現されていた。

と、今となっては思う。

そんな長い優しさの前フリから、ついにコーフィが処刑されてしまうシーンは見ていてとてもつらいものがあった。遺族から罵声が浴びせられ、コーフィが死刑囚であるという現実に引き戻された直後、ポールの手で処刑が行われる…

最期、2人が握手をするシーンは涙なしには観られない。

そして時が経ち、100歳を超えてなお、生き続けるポールは、これがコーフィという奇跡を処刑してしまった罪だと語る。

人間は誰もがそれぞれのグリーンマイルがある。

せめて、ポールに残されたグリーンマイルが少しでも幸福なものであることを願うばかりである。

リンカーン

スティーブン・スピルバーグ監督。主演、ダニエル・デイ=ルイス

予告編のダニエル・デイ=ルイスがカッコ良くて、何年も前からひそかに気になっていたのだが、ようやく鑑賞できた。

タイトル通り、リンカーンを題材とした作品なので、南北戦争を中心とした時代の中で、アメリカ史に残る大統領であるリンカーンの英雄的な側面を描いているのではないかと、観る前は思っていたのだが、その予想は大きく裏切られた。

戦争のシーンは皆無に等しく、シーンのほとんどはホワイトハウスと議会で展開されていく。

そこで描かれているのは、憲法の改正案を下院で通すための票獲得に奔走する姿。めちゃくちゃ地味。

さらに、冒頭でスピルバーグが簡単な時代背景を説明してくれるのだが、この時代についてある程度の知識がないとスムーズに観るのは難しいかもしれない。アメリカ人が忠臣蔵を観た感覚と一緒だろうか。私も、そもそもの予備知識に乏しいため、疑問に思ったところを調べながら観た。

これだけだと、無茶苦茶地味で、しかも2時間30分の長尺な、つまらない映画としか思えない。しかし、実際は、一瞬たりとも目を離せないほど、迫力のある作品だった。

この迫力を生み出していたのは、やはり、俳優たちの演技だろう。

特に私が好きなのは、トミー・リー・ジョーンズ演じるスティーブンスの議会でのシーンだ。

スティーブンスは白人と黒人が等しく扱われることを強く望んでいた。しかし、そのシーンでは、その信念を否定する発言をする。

それは、憲法の改正を実現を願うからこその「上辺の」発言であり、逆にその信念がいかに強いものであるかを表現するシーンだった。

そして、リンカーンは、大統領として、父として、夫して、あらゆる苦難を抱える、皆の思うリンカーンとは違った姿でした。派手ではないながらも、感情が揺れ動くさまを表現しきったダニエル・デイ=ルイスは流石としか言いようがなく、彼以上にリンカーンをうまく演じられる俳優はもういないんじゃないだろうか。

知識が足りなくても、楽しんで観られたが、次観る機会があったらちゃんと勉強してから観よう。。。

ライフ・イズ・ビューティフル

ロベルト・ベニーニ監督・主演。

前半と後半で大きく展開が変わる作品だった。

前半は、これぞイタリアの男、といった主人公グイドが、後の妻ドーラと出会い、結婚するまでの話。

もうとにかくゆるい。あれ?これ戦争の話じゃなかったっけ?

グイドめっちゃ喋るやん。どんだけ口回るのよ。

あと、お調子者と言うのにもほどがあるよ。帽子の件とか犯罪やん?笑

でも、どこか憎めない。あんなに無茶苦茶なことしまくっているのに。まあ、周りにいる人は楽しいんだろうけども。

そんなこんなでグイドはドーラを射止め、1人息子、ジョズエとともに楽しく生活している。なんてほのぼのしているんだろう。このままハッピーエンドで終わればいいのに。

というわけにはもちろんいかない。時は第二次世界大戦の真っただ中。ユダヤ人であるグイドは、その血を引くジョズエとともに、強制収容所に連行される。残された妻、ドーラも自ら志願して同行。

このあたりからもうすでに悲しい。かつて、惚れた女を落とすために駆使した口を、後半では、ジョズエが劣悪な環境に絶望してしまわないよう、必死になって使う。

「これはゲームだ!1000点集めたら戦車に乗ってお家に帰れるぞ!」

これがどれほどジョズエを勇気づけただろうか。

さらに、1人息子の安否を案ずるドーラに対しても、兵士の目を盗み、ジョズエの声をスピーカーに流すことで、その心配を取り除いてやろうとする。

こうして、グイドは3人分の不安を1人で背負う。大の男が追い込まれるほど過酷な環境なのに、その不安を3人分も背負い、家族を守ろうとしたグイドの心境はどんなものだったのか。

常に明るく振舞っていたグイドにも、一瞬絶望の顔を覗かせる場面がある。

それは、給仕をしていた時に知り合った、なぞなぞ仲間の医者で、今は、ナチスの軍医をしている男とのシーンである。

収容所で再開した2人は、「大事な話がある」と、周りの隙を盗んで話をすることに。

「ここから出られるかもしれない…」そうかすかな希望を抱いたグイドに、軍医が話した「大事な話」とは、友人の医者から出されたなぞなぞのことだった。

どうしても答えがわからず、眠れない。頭の回転が速いお前ならわかるだろう。とのことである。

ここで激しい怒りを覚えた人は私だけではないはずだ。そんなに眠りたいならずっとおねんねしてしまえばいいのに。

ここで現れたグイドの顔は絶望感に包まれていた。かつてのお調子者はそこにはいなかった。

そうこうするうちに、戦争は終わりを告げる。

しかし、外では激しい銃撃戦が。

どうやらすべてを消すつもりらしい。

このままでは死んでしまう。そう感じたグイドは、ジョズエを逃がすべく、激しい銃撃戦の行われている外へ。

ジョズエを隠し、さらにドーラに消されるという事実を伝えるため奔走する姿、そして、最後の最後までお調子者であり続けたグイドは、もはや、少し自分勝手にも思えるイタリア人ではなく、ただ家族を守り続けた、立派な父であった。

今日という1日がより楽しくあるために、強く生きて行かなくてはならないなと思わされた。戦争って絶対ダメ。自殺も絶対ダメ。

最後に。あの軍医だけは絶対許さない。日本風に言うならば、とにかく空気の読めない男だった。

インセプション

クリストファー・ノーラン監督。主演、レオナルド・ディカプリオ

メメントがあまりに面白かったため、同監督のこの作品を鑑賞。

簡単なあらすじから。

ディカプリオ演じるコブは、人の夢の中から情報を抜き取る産業スパイ。

ある日、渡辺謙演じるサイトーという男から、あることを条件に、「インセプション」を依頼される。

インセプションとは、情報を盗むのではなく、逆に植え付けることである。

情報を植え付け、その情報で人を操るためには、その情報が対象者の中で自然に生まれた、矛盾のないものとなるために、綿密に計画することが必要となる。例えば、夢の中でさらに夢に侵入することでその矛盾をなくしていくわけだが、深く潜れば潜るほど、難易度は格段に高くなる。

さらに、夢から夢へと深く潜っていくと、最悪、夢から目覚めずに、虚無と呼ばれる空間に入り込み、現実と夢との区別がつかなくなってしまう恐れがあるらしい。

そんな危険な依頼をコブが受けたのは、提示された条件によるものだった。

その条件とは、自らにかかっている妻殺害の容疑を抹消すること。

この容疑により、コブはアメリカに入国すれば即逮捕。子供たちにも会うことができない。

こうして、選りすぐりの仲間を集め、この依頼に挑んでいくわけだが、コブの、妻との間にあるあるトラウマが、夢に中に妻の幻影を投影し、困難な依頼をさらに困難なものとしていく。

と言った感じである。

メメントでも思ったことだが、とにかく観ていて疲れる。この監督の作品は全部疲れさせるのだろうか。夢から夢へとどんどん潜っていくので、展開がどんどん複雑になっていき、少しでもボーっとしているとすぐに置いて行かれる。

しかし、その分見応えはすごいものだった。シナリオがとにかく良く練られている、素晴らしいもので、最後までついていけたというだけで満足感が得られる。

集中して観ていたからだろうか、作中で現実の世界に戻ってきたのにもかかわらず、私は、まだ夢と現実の区別がつかないような、ふわふわとした感覚に襲われた。観ている人にも「トーテム」としてコマが必要かもしれない。